非常用発電機は、災害や停電時に重要な役割を果たします。病院や商業施設、オフィスビル、工場などの施設には欠かせない設備であり、電力供給が途絶えると、病院では命に関わる問題が、工場では生産ラインの停止などの深刻な影響が発生します。そのため、非常用発電機は人命や経済活動を守るために不可欠な存在であり、さまざまな施設に導入されています。
特に、ディーゼルエンジン式非常用発電機は最もよく選ばれる非常用発電機であり、他の種類と比較して安価かつ発電効率が高い点が好まれています。導入にあたって最初に選択肢に上がるのがディーゼルエンジン式ですが、稼働中に排煙や騒音が発生するため、適切な設置場所の選定と運用時の処置が必要です。
今回は、ディーゼルエンジン式非常用発電機の基本情報と、導入前に知っておくべき設置条件・運用時の注意点を解説します。
非常用発電機とは
非常用発電機は、災害や停電など非常時に備えて設置される発電設備であり、軽油やガスなどの燃料を用いて発電し、重要な設備へ電力を供給します。
本記事では非常用発電機のサイズに焦点を当てて解説しますが、まずは非常用発電機の基本的な役割や設置理由を押さえておく必要があります。はじめに、非常用発電機の果たす役割と導入の背景を解説します。
なお、非常用発電機には一般家庭向けの小型タイプも存在しますが、この記事では病院や工場などに導入される大型施設向けの設備を対象としています。
非常用発電機の役割
非常用発電機の役割は、常用電源が停止した際に防災設備へ電力を供給することです。
商業施設や病院、オフィスビルなどには、スプリンクラーや非常灯、非常放送といった防災設備が備えられています。これらは災害時に避難誘導や初期消火を行ううえで不可欠ですが、電力がなければ作動しないため、対応が遅れ被害の拡大につながるおそれがあります。
こうしたリスクに備えるため、非常用発電機は非常時に電力を安定供給し、防災設備の機能維持に貢献します。たとえば、火災で常用電源が喪失した場合でも、非常用発電機が稼働すればスプリンクラーや非常放送を作動させることができ、被害の抑制につながります。
このように、非常時に電力を供給する設備全般は「非常電源」と呼ばれ、その中でも燃料を使って自立して発電を行う設備が「非常用発電機」です。
非常用発電機の設置目的
非常用発電機の設置目的は、電力供給が断たれた際にも必要な設備へ電力を届けることです。
病院や商業施設、オフィスビル、工場など多くの施設で導入されており、その目的は施設ごとに異なります。ここでは、非常用発電機が設置される主な理由について解説します。
- 災害対策
- BCP対策
災害対策
災害対策は、非常用発電機を導入するもっとも代表的な目的です。前述のとおり、防災設備へ電力を供給することで、被害の拡大を防ぐための初期対応を可能にします。非常用発電機は、災害に備えるうえで欠かせない存在といえるでしょう。
特に下記の条件に該当する施設については、消防法や建築基準法によって非常用発電機の設置が義務付けられています。
◆非常用発電機の設置が義務付けられる施設の条件
準拠する法令 | 条件 | 該当施設の例 |
|---|---|---|
|
消防法 | ・不特定多数の人が出入りする | 病院、老人ホーム、学校、工場、映画館 など |
建築基準法 | ・高さ31mを超える ・不特定多数の人が出入りする ・避難困難者がいる、もしくは避難が困難な環境条件である | ホテル、マンション、オフィスビル、大型商業施設 など |
ただし、これらの条件に該当しない施設でも、リスクに備えるため自主的に導入するケースが増えています。
非常用発電機は、法的義務の有無にかかわらず災害対策として重要な設備です。施設を運営されている方は、災害時のリスクを一度見直し、必要に応じて導入を検討してみてください。
BCP対策
BCP(Business Continuity Planning:事業継続計画)の一環として、非常用発電機が導入されるケースもあります。BCPとは、災害やシステム障害などの非常時において、事業を継続させるための計画のことです。
非常用発電機があれば、停電などによって電力が断たれた場合でも、自家発電により事業の早期復旧が可能になります。たとえば、工場であれば生産ラインの再稼働、オフィスビルであればサーバーの継続運転が実現できます。
このように、非常用発電機は事業活動の中断を最小限に抑えるための要であり、安全確保にとどまらず、経営の観点からも重要な設備となります。
ディーゼルエンジン式非常用発電機とは
非常用発電機にはいくつかの種類があり、それぞれ構造・発電原理・燃料が異なります。中でもディーゼルエンジン式非常用発電機は、多くの施設に導入されている最も一般的な種類です。ここでは、ディーゼルエンジン式非常用発電機の基本情報を解説します。
基本構造と発電原理
まずはディーゼルエンジン式非常用発電機の基本構造と、その発電原理について解説します。
基本構造
ディーゼルエンジン式非常用発電機は、大きく分けて次の5要素で構成されています。構造図の例は下図のとおりです。
- 原動機(ディーゼルエンジン):発電を行うための動力源。ディーゼルエンジン式の一番の特徴とも言える機関。
- 発電機:原動機からの出力を受け、電力を発生させる機関。
- 制御装置:非常用発電機の始動・停止を制御する装置。停電発生時に自動で始動、復旧時には自動で停止させる。
- 冷却装置(ラジエータ):非常用発電機の冷却水や潤滑油を冷却※する装置。
※原動機は稼働によって発熱し、放置すると非常用発電機の停止・故障に発展します。これを防止するため、冷却水の循環や潤滑油の供給により除熱が行われています。
- 燃料タンク:燃料(A重油や軽油)が貯蔵され、稼働時には原動機へ燃料を供給する。
ディーゼルエンジン式非常用発電機の中にはこれらの装置や、動作を補助するその他の付帯装置が納められています。いずれの装置も稼働にあたって重要な役割を果たしており、特に原動機(ディーゼルエンジン)と発電機の組み合わせは、ディーゼルエンジン式非常用発電機の中核を成しています。
画像引用元:3.4 非常用発電装置(農林水産省)
発電原理
ディーゼルエンジン式非常用発電機は、原動機であるディーゼルエンジンで燃料を燃やし、取り出したエネルギーを発電機で電力に変換しています。
ディーゼルエンジンでは空気の吸入行程および圧縮行程、燃料を燃焼させる爆発行程、排気ガスを外へ逃がす排気行程を繰り返す4サイクル機関行程(下図)により、燃料から得られたエネルギーをピストン運動として発電機に伝達します。発電機でこのピストン運動を電力に変換することで、停電時でも必要な設備に電力を供給できるのです。
画像引用元:3.4 非常用発電装置(農林水産省)
サイズと価格
ディーゼルエンジン式のサイズおよび価格は、その定格容量によっておおよそ決まります。定格容量とは、一度に扱うことのできる電力を表し、非常用発電機においては供給可能な電力のことです。定格容量が大きくなれば、これに伴ってサイズと価格も増大します。
一般的な定格容量別のサイズ・価格は下の表のとおりです。ただし、こちらは非常用発電機本体の価格のみを整理したものであり、付帯設備などにより高額化する可能性があります。
ディーゼルエンジン式非常用発電機の一般的なサイズと価格
区分 | 定格容量[kVA] | サイズ[mm] | 価格 |
|---|---|---|---|
|
小型 | ~30 | W:~1,000D:~1,800H:~1,300 | 約100~400万円 |
中型 | 30~100 | W:1,000~1,600D:1,800~2,800H:1,300~1,800 | 約400~1,500万円 |
大型 | 100~ | W:1,600~3,000D:2,800~5,000H:1,800~3,000 | 1,500万円以上 |
導入すべき非常用発電機の定格容量は、施設の規模や接続したい負荷の総量によって決まるものです。安全かつ効率的な運用のために、まずは適切な定格容量を選定しましょう。
そのうえで、機種によって細かなサイズ・価格に差がありますので、設置環境やコストを考慮しつつ要求に満足する非常用発電機を選ぶことが重要です。
ディーゼルエンジン式の設置条件
ディーゼルエンジン式非常用発電機はもっとも一般的な種類と説明しました。一方、その特性から設置環境に求める条件がいくつかあり、導入にあたってよく理解しておく必要があります。ここでは、ディーゼルエンジン式非常用発電機に適した設置条件を解説します。
騒音・排煙を対策できること
ディーゼルエンジン式非常用発電機に適した設置条件の中で最も重要なことは、騒音・排煙を対策できることです。
先述の4サイクル機関行程には、燃料の燃焼により発生したガスを排気する排気工程が含まれています。つまり、燃料由来の排煙が非常用発電機から放出されるということです。
排煙は主に二酸化炭素や水蒸気、炭素の微粒子、一酸化窒素や二酸化窒素などで構成されます。特に炭素の微粒子や一酸化窒素・二酸化窒素は呼吸器疾患の原因になるため、排煙が施設内に充満しないよう対策を講じる必要があります。
また、ディーゼルエンジン式は稼働時に大きく振動し、騒音が発生します。騒音の原因はディーゼルエンジンの稼働音と排気音です。設置場所の状態にもよりますが、非常用発電機周辺では約100dB(電車の通過音、自動車のクラクションと同程度)の大きな音が響くこともあります。そのため、周囲に遮音パネルを設置する、非常用発電機の下に防振ゴムを敷くなどの対策を講じ、施設内や近隣施設への影響を最小化しなくてはなりません。
以上の条件を踏まえると、ディーゼルエンジン式非常用発電機は屋外設置とすることが基本です。屋内設置の例もありますが、排気ダクトの敷設や防音設備の構築が必要になるため、設置コストが増大してしまいます。また、施設の規模によってはこうした対策設備の構築が難しい場合もあります。
燃料を備蓄できること
次点で重要になるのが、燃料を備蓄できることです。
ディーゼルエンジン式非常用発電機の燃料は軽油とA重油です。どちらも可燃性の高い危険物に指定されており、保管時には法令で定められた管理レベルが要求されます。
たとえば、「危険物の規制に関する法令」の第28条に、危険物を保管する容器が満たすべき条件(一定以上の強度、漏洩防止など)が定められています。これに基づき、軽油は専用のポリ容器もしくは金属容器、A重油は金属製タンクを用いるのが一般的です。加えて、燃料が漏洩しても広範囲に広がらないように防油堤を設けることや、気化した燃料が室内に充満しないよう換気設備を設けることも要求されています。
ディーゼルエンジン式は他方式と比べて安価かつ安定して発電できるため、最初に選択肢に挙がります。しかし、施設によってはディーゼルエンジン式が適さない場合ももちろんあります。適した設置条件を完備できるか、導入の前によく確認しておきましょう。
ディーゼルエンジン式の運用時の注意点
ディーゼルエンジン式非常用発電機を万が一の際に効率よく使用できるよう、運用にはいくつか気を付けなくてはならないことがあります。ここでは、ディーゼルエンジン式非常用発電機の運用にあたっての注意点を解説します。
定期点検が必要となる
どんな設備も長く・安全に利用するためには定期点検が必要であり、ディーゼルエンジン式非常用発電機も例外ではありません。定期点検を適切に実施することにより、有事の際に非常用発電機を効率よく運転できます。
非常用発電機の定期点検頻度は消防法で定められており、個別機器の点検は半年に1回、総合点検は年に1回です。また、非常用発電機の中には始動用にバッテリーを搭載しているものもあり、バッテリーの動作確認は月に1回程度が推奨されています。
点検が必要なのは機器だけではありません。燃料は放置すると気化するため、常に必要量がタンクに存在することを確認する必要があります。加えて、燃料は時間経過で劣化するため、半年~1年に1回の品質検査が推奨されています。
法令で定められた定期点検は、欠かさず実施することが事業者には求められます。また、推奨されているその他の点検も逐一実施しておくことで、有事の際に万全の状態で非常用発電機を利用できます。
安全対策が必要となる
先述のとおり、ディーゼルエンジン式非常用発電機からは排煙が発生します。屋内設置であれば適切に排気できる必要があり、屋外設置の場合でも、排煙が作業員待機エリアや施設内に向かないよう注意が必要です。
その他にも、非常用発電機は燃料を内蔵しているため近くでの火器使用が厳禁であることや、漏電のリスクがあるため使用時には人が近づかないことなど、一見当たり前のようで見落としがちな注意事項もあります。警告表示を周囲に設けるなど、運用にあたってはリスクの最小化に努めましょう。
まとめ
非常用発電機は、災害や停電による電力遮断時に、必要な設備へ確実に電力を供給するための要であり、防災対策や事業継続の観点から幅広い施設で導入されています。非常用発電機は複数の種類が販売されていますが、最も一般的なタイプがディーゼルエンジン式であり、原動機にディーゼルエンジンを採用していることが最大の特徴です。
ディーゼルエンジン式非常用発電機は、ディーゼルエンジンで燃料を燃やし、燃焼時の爆発的なエネルギーをピストン運動として発電機に伝えることで電力を生み出しています。また、冷却水や潤滑油を冷やして除熱を補助する冷却装置や、停電時に自動で非常用発電機を始動させる制御装置など、エンジンと発電機の稼働を補助する付帯装置も内蔵されています。
ディーゼルエンジン式非常用発電機を導入するには、第一に排煙・騒音を対策できることが必要条件です。屋内設置の場合、排気・防音設備が必要になるため、コストを考慮すると屋外設置とするのが一般的とされています。第二に、燃料の備蓄に適した環境を構築できることも重要な要素です。保管容器は法令に適合したものを用意し、防油堤や換気設備の完備など、安全確保のために必要な措置を講じることが求められます。
非常用発電機はその名のとおり常用設備ではないものの、定期点検を怠ると、万が一の際に機能しないこともあり得ます。消防法にて、機器点検は半年に1回、総合点検は年に1回と定められているため、欠かさず実施しましょう。また、燃料も放置すると気化・劣化するため、定期的に燃料タンクを確認することが重要です。
使用時にも注意が必要であり、排煙が人に向かわないこと、感電事故を防ぐために人が接近しないこと、周囲で火器を使用しないことといった基本的な安全管理も忘れてはいけません。
非常用発電機には今回ご紹介したディーゼルエンジン式以外にもさまざまな種類があり、それぞれに特徴・向いている施設条件があります。さらに、メーカーごとの細かな違いや必要な付帯設備、施設全体の運用計画など、導入にあたって加味しなくてはならない要素が多岐にわたります。そのため、非常用発電機を導入する際には、専門知識をもとに総合的に判断できるプロの視点が必要不可欠です。
小川電機株式会社は、60年以上にわたり非常用発電機の設置工事から点検、修理、更新まで一貫して対応してきた実績があります。施設の特性や目的に応じた最適な提案と確実なサポートにより、安全性と事業継続性を両立する電力環境を実現します。
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