キュービクルは、設置環境や内蔵機器、求められる仕様に応じてさまざまな種類があります。適切な種類を選定することが、施設の安全で効率的な運用に欠かせません。選定には各種類の特徴を正しく理解することが重要です。
今回は、商業施設や工場、オフィスビルなどで使用されるキュービクルの種類を、特徴や選定基準とともにわかりやすく解説します。
キュービクルの基礎知識
キュービクルを選定するには、その役割や基本的な機能を理解することが不可欠です。まずはキュービクルが何であり、どのような役割を果たすのかを明確に知ることで、その重要性が深く理解できます。ここでは、キュービクルの基本的な情報について解説します。
キュービクルとは
キュービクルとは、「キュービクル式高圧受電設備」の略で、高圧の電力を受け取るための電気設備です。外観は金属製の箱型で、その内部には受電機器や保護装置、計測装置が収納されています。
この外箱は、風雨やその他の外的要因から内部機器を保護し、作業員が誤って接触するリスクを軽減します。元々は外箱のみを指していましたが、現在では設備全体を指すことが一般的です。
キュービクルは、主に工場や病院、オフィスビルなど、大量の電力を消費する施設に設置されます。契約電力が50kWを超える事業者には、高圧受電設備の設置が法令で義務づけられているためです。
キュービクルの役割
キュービクルの主な役割は、高電圧で送られてくる電力を、安全に使用できる電圧に変換することです。
発電所で生成された電力は、変電所を経由して約6,600Vの高電圧で施設に送電されます。これは送電時に発生するエネルギー損失(ジュール熱など)を最小限に抑えるためです。
しかし、そのままでは一般的な電気設備では使用できません。そこで、6,600Vの高電圧を100Vや200Vの利用可能な電圧まで降圧する「高圧受電設備」、つまりキュービクルが必要となります。キュービクルは、施設における電力利用を支える重要な設備です。
キュービクルの種類:設置環境別
キュービクルの設置場所は屋内と屋外に分けられ、それぞれに適した仕様が求められます。設置環境の違いによって、構造やコストが大きく変わるため、適切な選定が求められます。ここでは、設置環境に応じたキュービクルの種類を解説します。
- 屋内用キュービクル
- 屋外用キュービクル
屋内用キュービクル
屋内用キュービクルは、風雨の影響を受けないため外装が簡易で軽量なモデルが主流で、比較的安価です。しかし、高電圧機器を安全に管理するためには専用の電気室を設け、施錠や監視体制を整える必要があります。さらに、機器の発熱を逃がすための換気設備も必要です。
そのため、キュービクル本体の価格は安いものの、建築費や設備費がかさむことが多く、屋外設置よりも総額が高くなる場合があります。導入時には、室内スペースの確保状況や建屋改修が必要かどうかを含めてトータルコストで比較・検討することが重要です。
屋外用キュービクル
屋外用キュービクルは、屋内スペースを圧迫せず、既存建物のレイアウトを大きく変更せずに設置できる点が大きなメリットです。しかし、雨水や塩害、小動物の侵入を防ぐため、外箱は防水・防錆・防獣構造となり、さらにフェンスや鍵付きゲートで物理的に保護する必要があります。
これらの強化仕様により、重量や価格が増加するため、屋内用キュービクルよりも導入コストが高くなる傾向があります。また、特殊環境に対応するため、海岸部や重工業地帯向けに耐候性や耐塩害性能が高められた特殊仕様品も提供されており、環境条件が厳しくなるほどコストが上昇する点に留意する必要があります。
キュービクルの種類:遮断装置別
キュービクルは、過電流遮断機や漏電遮断機などの遮断装置を内蔵し、過負荷時でも設備の健全性を維持できるよう設計されています。キュービクルの種類は、内蔵する遮断装置に応じて2つのタイプに分類できます。ここでは、遮断装置によるキュービクルの種類について解説します。
- PF-S型キュービクル
- CB型キュービクル
【遮断装置に応じたキュービクルの種類と特徴】
種類 |
遮断装置 |
特徴 |
PF-S型 キュービクル |
・高圧限流ヒューズ(PF) ・高圧交流負荷開閉器(LBS) |
・受電設備容量が300kVA以下 ・本体がコンパクトかつ安価 ・高圧限流ヒューズが消耗品 |
CB型 キュービクル |
・高圧遮断機(真空遮断機、ガス遮断機など) |
・受電設備容量が300kVA超でも使用可能 ・比較的大型かつ高価 ・高圧遮断機の繰り返し使用が可能 |
PF-S型キュービクル
PF-S型キュービクルは、高圧限流ヒューズ(Power Fuse)と高圧交流負荷開閉器(Load Break Switch)を遮断装置として採用したキュービクルです。このタイプは、遮断装置が小型であるため、コンパクトで安価な傾向があります。
ただし、PF-S型キュービクルは受電設備容量(接続される負荷の総電気容量)が300kVA以下でなければ使用できません。特に、高圧電動機が含まれる負荷設備では容量が不足するため、使用に制限があります。
また、高圧限流ヒューズはヒューズエレメントが溶断することで電気を遮断するため、繰り返し使用できません。遮断のたびにヒューズを交換する必要があり、初期コストは安価でも、長期的なコストを試算する際には注意が必要です。
CB型キュービクル
CB型キュービクルは、真空遮断機(Vacuum Circuit Breaker)やガス遮断機(Gas Circuit Breaker)などの高圧遮断機を内蔵したキュービクルです。
過電流が発生すると、過電流継電器がそれを検知し、遮断機に信号を送り、事故回路を切り離します。これらの遮断機は高電圧を安全に遮断できるため、ほとんどの高圧受電施設で使用されています。
さらに、真空遮断機やガス遮断機は繰り返し使用できるため、PF-S型キュービクルのように遮断後に装置の交換を行う必要がありません。
PF-S型・CB型の選択方法
下記の表で、両タイプの特徴を整理します。受電設備容量が300kVAを超える場合は「CB型」を選択し、300kVA以下であれば、コストや設置スペースに応じて「PF-S型またはCB型」を選ぶことができます。
遮断装置に応じたキュービクルの種類と特徴
種類 | 遮断装置 | 特徴 |
---|---|---|
PF-S型 | ・高圧限流ヒューズ(PF)・高圧交流負荷開閉器(LBS) | ・受電設備容量が300kVA以下・本体がコンパクトかつ安価・高圧限流ヒューズが消耗品 |
CB型 | ・高圧遮断機(真空遮断機、ガス遮断機など) | ・受電設備容量が300kVA超でも使用可能・比較的大型で高価・高圧遮断機の繰り返し使用が可能 |
キュービクルの種類:認定・推奨別
キュービクルは、法令や規格、基準によって分類されることがあります。その中でも特に重要な分類が、「認定キュービクル」と「推奨キュービクル」です。これらは選定基準が異なるため、用途や条件に応じて適切なタイプを選ぶことが求められます。ここでは、認定キュービクルと推奨キュービクルの違いについて解説します。
認定キュービクル
認定キュービクルとは、昭和50年(1975年)に制定された消防庁告示7号「キュービクル式非常電源専用受電設備の基準」に適合したキュービクルです。
非常電源専用受電設備は、火災などの災害時に、常用電源が使用できなくなった場合に、消火栓設備やスプリンクラーなどの消防設備に電力を供給するための設備です。この基準は、災害時にも機能を喪失しないようにするため、非常に厳格な基準を満たしています。
認定キュービクルは、これらの基準に基づいて審査され、耐火性能や品質が認められたものです。このため、認定キュービクルは非常電源として使用可能で、他の非常電源設備の合理化にもつながります。
推奨キュービクル
推奨キュービクルは、日本電気協会が定めた「キュービクル式高圧受電設備推奨規程」に適合したキュービクルを指します。この規程は、波及事故や感電事故の防止を目的としており、安全性が確保された設備が認められます。
推奨キュービクルは、JIS規格(JIS C4620)に準拠し、さらに消防法令に基づいて消防長から「火災予防上支障がない」と認められた構造を有することが保証されています。
推奨キュービクルを導入する場合、設置基準が緩和されることがあります。たとえば、屋外設置時に必要な建物からの離隔距離が、通常3m以上のところを1m以上に緩和できるなど、設置の柔軟性が増します。これにより、設置場所の選択肢が広がることになります。
キュービクルを導入する際の選び方のポイント
キュービクルは、その種類によって適した環境条件や基準が異なります。そのため、導入予定の施設に最適なキュービクルを選定することが重要です。最後に、キュービクル選定時に押さえるべきポイントを解説します。
- 使用電力とキュービクルの容量
- 設置場所の大きさ
- 設置場所の環境条件
使用電力とキュービクルの容量
キュービクルにはそれぞれ処理可能な電力、すなわち容量が定められています。これは、キュービクルに内蔵された変圧器の定格容量に基づいています。
施設の規模に対して容量が不足していると、同時に使用したい設備が動作しないことがあります。また、過電流によりキュービクルが故障し、最悪の場合、漏電による停電や火災といった重大な事故につながる可能性もあります。
一方、過剰な容量のキュービクルを選ぶと、無駄な設備費用がかかるため、施設で使用する電力に適した容量を選定することが重要です。ただし、PF-S型など、使用電力に制限があるキュービクルもあるため注意が必要です。
設置場所の大きさ
キュービクルを設置する場所の大きさも選定時の重要な要素です。キュービクルは容量が大きくなるほどサイズも大きくなるため、設置スペースとキュービクルのサイズが適合しているか確認しましょう。
また、設置基準を満たせるかも重要な点です。もし基準を満たせない場合は、推奨キュービクルを選ぶことで、設置基準が一部緩和される可能性があります。これにより、設置場所の選択肢が広がる場合があります。
設置場所の環境条件
キュービクルは設置場所の環境条件、特に屋内か屋外かによって仕様が異なります。
屋内に設置でき、専用の電気室や換気設備を整えられる場合、屋内用キュービクルが選択肢になります。一方で、屋外設置が必要な場合は、防水や防獣構造が施された屋外用キュービクルを選ぶ必要があります。
また、設置場所が海岸部や重工業地帯などの特殊環境の場合、耐候性や耐塩害性能を強化した特殊仕様のキュービクルを選ぶことで、長期的な運用が可能になります。設置環境に応じた最適なキュービクルの選定が求められます。
まとめ
キュービクルは、商業施設や工場、オフィスビルなどの施設において、電力供給の基盤を支える重要な設備です。高電圧を受電し、適切な電圧に変換する役割を担い、施設内の電力使用を支えています。
キュービクルは、設置環境、内蔵する装置、さらには満たすべき基準に応じて、さまざまな種類に分類されます。設置場所によって最適なタイプを選定することが重要であり、まずは設置環境が屋内か屋外かによって選ぶべきキュービクルが決まります。
屋内用キュービクルは外装が簡易でコンパクト、安価な傾向がありますが、専用電気室の設置や換気設備が必要で、全体のコストは高くなることがあります。対して、屋外用キュービクルは、天候や動物の侵入から守るために強化された外装を備え、導入コストが高くなることが多いです。
また、特殊環境に対応するために耐候性や耐塩害性能が求められる場合、これらの特別な仕様を考慮したキュービクルを選定することが求められます。
次に、キュービクルは内蔵する遮断装置によっても分類されます。PF-S型キュービクルは、比較的小型で安価なものの、電力容量が300kVA以下でないと使用できません。一方、CB型キュービクルは高圧遮断機(真空遮断機やガス遮断機)を内蔵しており、300kVAを超える電力にも対応可能であり、繰り返し使用できることが特徴です。
さらに、法令や規格に基づく分類も重要です。認定キュービクルは、消防庁告示に適合した設備で、非常電源専用として使用でき、他の非常電源設備を合理化できます。推奨キュービクルは、日本電気協会の規定に適合し、設置基準の一部を緩和することができるため、設置場所の選択肢を広げることができます。
キュービクルの選定は、導入する施設の環境や使用目的に合わせることで、長期的なコスト削減にもつながります。しかし、選定基準や要件が多岐にわたるため、専門的な知識が必要です。豊富な経験を持つ業者と連携することで、設計から施工、保守までを一貫してサポートしてもらい、リスクを最小限に抑えながら最適な設備を導入することができます。
小川電機株式会社は、60年以上の実績を誇り、キュービクルの新規設置からメンテナンス、トラブル対応まで迅速に対応できます。信頼できるパートナーとして、安心・安全な電力インフラの構築をサポートいたします。少しでもご興味をお持ちの方は、小川電機株式会社までお気軽にお問い合わせください。