キュービクル式発電機は、災害時や停電時でも確実に電力を確保できる心強い設備です。事業継続や防災対策を重視する企業にとって、導入は大きなメリットとなります。
今回は、キュービクル式発電機の基本的な仕組みから、設置に関わる法令や基準、さらに選定時に押さえるべきポイントを体系的に解説します。導入を検討している方にとって、必要な情報を一通り理解できる内容です。
キュービクル式発電機とは?
キュービクル式発電機とは、発電機や原動機、制御装置などの主要機器を外箱(キュービクル)にまとめて収納した発電設備のことです。必要な装備をすべて内部に収めるため、省スペースで設置できる点が大きな特徴です。
主に常時の電源や非常用・防災用電源として利用され、火災時には屋内消火栓設備やスプリンクラー設備などの消防設備に電力を供給する役割を担います。近年では企業のBCP対策(事業継続計画)としての導入も増加しています。
ただし、建設現場などで用いられる移動式の発電設備は、構成機器が箱内に収まっていても「キュービクル式発電機」とは区別されます。
キュービクル式発電機に関する法令
キュービクル式発電機には、設置や運用に関して複数の法律が関わります。主な関連法令は次の3つです。
- 消防法
- 電気事業法
- 建築基準法
消防法
防災上の観点から、キュービクル式発電機は消防法に基づき、所定の保有距離(離隔距離)を確保して設置することが義務付けられています。さらに、非常用電源として用いる場合には、非常時に安定した電力供給ができるよう、次の要件を満たす必要があります。
- 定格負荷で60分以上の連続運転が可能であること
- 燃料油が2時間以上運転できる容量を有すること
- 40秒以内に電圧を確立できること
電気事業法
一部のキュービクル式発電機は、電気事業法に定める「事業用電気工作物」に該当します。その場合、設置者には保安規制を遵守する義務があります。代表的な規制は次のとおりです。
保安規程作成・届出・遵守義務(第42条)
事業用電気工作物設置者は保安規程を制定、経済産業大臣への届出、遵守が求められます。
主任技術者選任義務・職務誠実義務(第43条)
災害防止の観点から、事業用電気工作物を設置する場合は、保安の監督を行う主任技術者を置かなければなりません。また、選ばれた主任技術者には適切に業務を行ってもらうための誠実義務を課します。
特に、自家発電設備の点検は、電気主任技術者を選任し、さらに特定の常用のガスタービン発電設備の点検については、電気主任技術者に加え、ボイラー・タービン主任技術者の選任も必要です。
また、事業用電気工作物に該当するのは次の設備です。
- 10kW以上の出力のディーゼル期間、ガス機関、ガソリン機関などの内燃力発電設備
- すべての出力のガスタービン発電設備
参照元:
建築基準法
建築基準法では、常用電源が停電した場合でも防災設備を確実に稼働させるため、予備電源の設置を義務付けられています。
たとえば、第34条第2項により、高さ31mを超える建築物(政令で定めるものを除く)には「非常用の昇降機」の設置が必要です。また、第35条では、不特定多数が利用する建築物や学校・病院などの特殊建築物、階数3以上の建築物、延べ面積1,000㎡超の建築物などに、避難施設や次の設備を設けることが義務づけられています。
- 排煙設備
- 非常用の照明装置
- 非常用の進入口
- 消火設備
ここで「特殊建築物」とは、建築基準法第2条第二号で定義される学校、病院、劇場、百貨店、共同住宅など広範な用途の建築物を指します。
「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、市場、ダンスホール、遊技場、公衆浴場、旅館、共同住宅、寄宿舎、下宿、工場、倉庫、自動車車庫、危険物の貯蔵場、と畜場、火葬場、汚物処理場その他これらに類する用途に供する建築物をいう。」
さらに非常時の電力確保については次の基準が設けられています。
- 防災設備に30分以上の電力供給ができること
- 30分以上の連続運転ができる容量を持つこと
- 40秒以内に電圧を確立できること
これらを満たすことで、緊急時にも安定した電力供給が確保されます。
参照元:建築基準法による自家発電設備の設置等に関する規制(一般社団法人 日本内燃力発電設備協会)
キュービクル式発電機の設置基準
キュービクル式発電機を設置する際は、各市町村の火災予防条例に基づいた基準を守らなければなりません。ここでは、屋内設置と屋外設置のそれぞれにおける主なルールを整理します。
屋内に設ける発電機の位置の基準
国が示す火災予防条例のモデルによると、屋内に発電機を設ける場合の基準は次のとおりです。
- 容易に点検することができる位置に設けること。
- 防振のための措置を講じた床又は台上に設けること。
- 発電機、燃料タンクその他の機器は、堅固に床、壁、支柱等に固定すること。
- 水が侵入し、又は浸透するおそれのない位置に設けること。
- 可燃性又は腐食性の蒸気又はガスが発生し、又は滞留するおそれのない位置に設けること。
- 発電設備(消防長(消防署長)が火災予防上支障がないと認める構造を有するキュービクル式のものを除く。)は、不燃材料で造った壁、柱、床及び天井で区画され、かつ、窓及び出入口に防火戸を設ける室内に設けること。ただし、発電設備の周囲に有効な空間を保有する等防火上支障のない措置を講じた場合は、この限りでない。
- キュービクル式のものは、建築物等の部分との間に換気、点検及び整備に支障のない距離を保つこと。
参照元:自家発電設備の設置に関係する規制(その3)(一般社団法人 日本内燃力発電設備協会)
屋外設置のキュービクル
屋外に設置する場合は、高圧受電設備規程(JEAC8011)により以下の保有距離が定められています。
保有距離を確保する場所 | 保有距離 [m] |
---|---|
点検をする面 | 0.6以上 |
操作する面 | 扉幅+保安上有効な距離 |
溶接などの構造で換気口がある面 | 0.2以上 |
溶接などの構造で換気口がない面 | - |
さらに東京都火災予防条例第11条では、次のように規定されています。
1) 屋外に設けるキュービクル式受電設備(消防長が火災予防上支障がないと認める構造を有するキュービクル式受電設備は除く。)は、建築物から3m以上の距離を保つこと。ただし、不燃材料で作り、又はおおわれた外壁で開口部のないものに面するときは、この限りでない。
2) 金属箱の周囲の保有距離は、1m+保安上有効な距離以上とすること。ただし、隣接する建築物等の部分が不燃材料で造られ、かつ、当該建築物等の開口部に防火戸その他の消火設備が設けてある場合にあっては、表1に準じて保つことができる。
なお、消防長が火災予防上支障がないと認める構造の認定品・推奨品(日本電気協会による規格品など)は、この規制の対象外となります。
また消防法では、基準に基づく確認結果を「非常電源(自家発電設備)試験結果報告書」に記録し、工事完了時に消防用設備等設置届出書へ添付して消防機関に提出する義務があります。これにより、消防機関が技術基準に基づき設置状況を検査する仕組みが整備されています。
参照元:
キュービクル式発電機の点検・保守のポイント
キュービクル式発電機は、安全に運用するために法令で定められた定期点検を必ず実施しなければなりません。
電気事業法における点検
電気事業法では、定期点検として「月次点検」と「年次点検」の2種類が義務付けられています。
月次点検
月次点検は毎月または隔月で実施し、次の内容を確認します。
外観点検で確認する設備
- 引込設備
- 受電設備
- 受・配電盤
- 接地工事
- 構造物
- 発電設備
- 蓄電池設備や負荷設備
測定で確認する内容
- 設備電圧、負荷電流の測定により電圧値の適否及び過負荷等
- B種接地に係る漏れ電流の測定により低圧回路の絶縁状態
- 高圧機器本体及び接続部等の温度測定による過熱
年次点検
年次点検は原則として年1回以上、停電状態で行います。月次点検に加え、次のものを確認します。
- 低圧電路及び高圧電路の絶縁状態が技術基準を満たしていること
- 接地抵抗が技術基準を満たしていること
- 保護継電器の動作特性及び連動動作試験の結果が正常であること
- 非常用予備発電装置の起動・停止・発電電圧・発電電圧周波数が正常であること
- 蓄電池設備があれば、劣化していないこと
参照元:
消防法における点検
対象のキュービクル式発電機が消防設備用の非常用電源である場合は、消防法に基づく点検も必要です。
消防法第17条3の3では、防火対象物の関係者に対し、設置された消防用設備(非常電源を含む)を有資格者に定期点検させ、その結果を消防機関へ報告することを義務付けています。
点検の具体的内容は消防法施行規則や関連告示で規定され、次のように区分されます。
①機器点検(半年に1回)
- 非常電源(自家発電設備)又は動力消防ポンプの正常な作動
- 消防用設備等の機器の適正な配置、損傷の有無等の外観からの判別
- 消防用設備等の機能について、外観から又は簡易な操作による判別
②総合点検(1年に1回)
- 消防用設備等の全部若しくは一部を作動させ、又は使用することによる総合的な機能の確認
参照元:消防法による自家発電設備の点検等について(一般社団法人 日本内燃力発電設備協会)
キュービクル式発電機を選ぶ際のポイント
キュービクル式発電機を導入する際は、用途や設置環境に応じて最適な機種を選定することが重要です。誤った選択をすると、必要な電力を確保できなかったり、法規制に抵触したりする可能性があります。ここでは、選定時に押さえるべき4つの主要ポイントを解説します。
- 出力容量
- 冷却方法
- 騒音仕様
- 発電機、駆動機関の種類
出力容量
まずは、施設の規模や必要電力量を基に、必要な出力容量を算出します。非常用発電機では全館に電力を供給するのではなく、最低限の負荷に絞るのが一般的です。
たとえば、停電時も保安が求められる棟の照明については、電灯設備容量のおよそ30%を目安に設定します。
冷却方法
次に冷却方式を選択します。大別すると空冷と水冷がありますが、実用面では水冷が主流です。さらに水冷方式は次のように分類されます。
- ラジエータ冷却方式:システムは簡単だが、室内の換気が必要。
- 放流式:圧力水が得られる環境で使用。
- クーリングタワー式:屋外の冷却タワーを利用。
騒音仕様
設置地域の騒音規制基準に適合することも必須です。施設の稼働音が規定値を超えないよう配慮し、必要に応じて遮音対策を講じます。加えて、都道府県ごとに上乗せ基準を設けている場合があるため、事前確認が欠かせません。
発電機、駆動機関の種類
発電機や駆動機関の種類も選定に大きく影響します。特に駆動機関はディーゼル機関やガスタービン機関などがあり、出力や特性に差があります。用途や環境に合わせて適切なタイプを選ぶことが重要です。
まとめ
キュービクル式発電機は、停電や災害時に電力を確保できる有効な手段であり、企業のBCP対策にも大きく貢献します。ただし、導入や運用にあたっては消防法や火災予防条例、電気事業法、建築基準法などの法令を遵守することが不可欠です。さらに、出力容量や駆動方式、冷却方法や騒音対策といった多角的な視点から、施設の規模や利用目的に適した発電機を選定する必要があります。
小川電機株式会社は、60年以上にわたり培った実績を基に、新規設置からメンテナンス、トラブル対応まで一貫してサポートしており、安全で信頼性の高い電力インフラの構築を支援しています。キュービクル式発電機の導入を検討される際は、ぜひ小川電機株式会社へご相談ください。