改正(2018年6月1日施行)と法的な点検・保全策・費用に関する解説記事です。
建物の安全確保や防災対策において、非常用自家発電設備は災害時等の電源喪失を防ぐ生命線です。しかし、従来の点検方法には運用の難しさや実効性の問題がありました。そこで2018(平成30)年6月1日に消防庁告示(昭和50年10月16日消防庁告示第14号等)に基づく点検基準等が改正され、より安定的かつ合理的な点検運用が可能となりました。
本コラムでは、改正の背景から「大きな4つのポイント」、ポイント①の「内部観察等」、ポイント②の「予防的な保全策」、法的点検(月次・年次等)の概要や費用感、主任技術者資格・点検内容の比較表、さらにQ&Aまで、資料に基づきわかりやすく解説します。
この記事の監修者
前田 恭宏
小川電機株式会社 経営企画室
電材業界で40年以上にわたり営業として従事。 空調や照明からキュービクル、非常用発電機、トランス、制御盤、電線まで、電気設備全般に幅広く携わってきました。 キュービクルや非常用発電機の導入・更新に関する不安や疑問にも、現場経験をもとにわかりやすくご説明いたします。
1. 2018年6月1日改正の背景と「4つの大きなポイント」

従来の自家発電設備(総合点検時)の点検では、原則として負荷運転の実施が求められていました。しかし、改正前は以下のような課題・問題点が存在していました。
- 実負荷による点検の困難さ:
実際の建築物等の負荷を用いて点検を行う場合、商用電源をあらかじめ停電させる必要があり、施設運営(医療施設、ホテル、データセンター等)への影響が大きいこと。
- 疑似負荷装置の配置困難:
屋上や地下階など設置場所によっては大型の疑似負荷装置の搬入や配置が困難であり、装置を利用した点検を行えないケースがあったこと。
これらの課題を解決するため、従来の点検方法のあり方が科学的に検証され、2018年6月1日施行の法改正によって新たな基準が設けられました。主なポイントは以下の4つです。
ポイント①:負荷運転に代えて行うことができる点検方法として「内部観察等」を追加
総合点検における運転性能の確認方法について、従来の「負荷運転のみ」から「負荷運転 または 内部観察等」へと選択肢が拡充されました。 検証データ等により、内部観察等の点検は負荷運転により確認している不具合を同水準以上で確認でき、かつ排気系統等に蓄積した未燃燃料等も同水準以上で除去・確認可能であることが実証されたためです。
ポイント②:点検周期を6年に1回に延長(予防的な保全策が講じられている場合)
従来、負荷運転(または内部観察等)の実施周期は1年に1回とされていました。しかし、運転性能の維持に係る「予防的な保全策」が適切に講じられている場合は、その実施周期を6年に1回に延長できるようになりました。 不具合が発生する部品の推奨交換年数が6年以上であることや、経年劣化しやすい部品等を適切に交換している状態であれば、無負荷運転(運転確認)を6年間行った場合でも運転性能に支障をきたす未燃燃料等の蓄積が見られないことが検証データ等で確認されています。
ポイント③:原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷運転は不要に
原動機にガスタービンを用いる自家発電設備については、従来必要とされていた負荷運転が不要となりました。 燃料消費量のデータ等から、ガスタービンを用いる自家発電設備の無負荷運転は、ディーゼルエンジンを用いるものの負荷運転と機械的・熱的負荷に差が見られず、排気系統における未燃燃料の蓄積等もほとんど発生しないことが確認されたためです。
ポイント④:換気性能点検の確認方法を「無負荷運転時」に変更
換気性能の点検は、従来は「負荷運転時における温度上昇」によって確認することとされていました。しかし、室内温度の上昇は軽微で外気温に大きく依存するため、温度確認よりも無負荷運転時における自然換気口や機械換気装置の作動確認を行う方が適切であると検証されたことから、無負荷運転時等の実施に変更されました。
2. ポイント①「内部観察等」とは?(資料に基づく解説)

改正により「負荷運転」の代替として導入された「内部観察等」は、以下の5つの具体的項目を実施し確認することを指します。
【内部観察等の主な5項目】
- 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
- 燃料噴射弁等の動作確認
- シリンダ摺動面の内部観察
- 潤滑油の成分分析
- 冷却水の成分分析
それぞれの詳細な手順と点検内容は以下の通りです。
1. 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
吸気サイレンサーや過給機ダクト、排気ダクト等を取り外し、過給器(ターボチャージャー)内部および排気管内部を目視点検します。
コンプレッサ翼・タービン翼:
運転に支障を及ぼす塵埃や燃焼残渣物(カーボン等)の付着がないか、損傷や欠損がないかを確認します。異常がある場合は清掃等により除去します。
排気管内部:
過給機取付部や排気管出口の可とう管継手等を取り外し、排気管・排気ダクト内部に未燃燃料や燃焼残渣物が異常に堆積していないかを目視確認・清掃します。
2. 燃料噴射弁等の動作確認
燃料噴射弁(インジェクター)を取り外し、専用の試験器等を用いて作動状態(噴射状態と噴射圧力)を確認します。
- 燃料噴射弁の開弁圧力が製造者の指定値範囲内であること。
- 噴射口に詰まりがなく、燃料の噴霧状態が均一で微細に霧化されていること。
- 燃料噴射弁先端からの燃料の液だれ(漏れ)がないこと。 異常が認められる場合は、開弁圧力の調整や清掃・部品交換等の措置を講じます。
3. シリンダ摺動面の内部観察
シリンダヘッドを取り外して内部を確認するか、または燃料噴射弁を取り外した取付穴から内視鏡(ファイバースコープ)を挿入してシリンダ内部を確認します。
- シリンダライナ摺動面に運転に支障を及ぼすような損傷、摩耗、焼付き痕がないかを確認します。
- 燃焼室への燃焼残渣物の異常堆積の有無を確認します。
4. 潤滑油の成分分析
オイルパン等から潤滑油(エンジンオイル)を必要量抜き出し、専門機関等で成分分析を行います。
- 確認項目: 「動粘度」「燃料希釈分」「塩基価」「金属成分」「水分」等が、製造者の指定値範囲内であるかを確認します。
5. 冷却水の成分分析
ドレインコック等から冷却水(LLC等)を必要量抜き出し、成分分析を行います。
- 確認項目: 「pH」「全硬度」「電気伝導率」「蒸発残留物」等が、製造者の指定値範囲内であるかを確認します。
成分分析の結果、指定値範囲外の項目がある場合には、該当部位の清掃、修理、オイル・冷却水交換等の必要な措置を実施します。
3. ポイント②「予防的な保全策」とは?(資料に基づく解説)

「予防的な保全策」とは、自家発電設備が万が一の際にも確実に始動・稼働するよう、不具合を未然に防止するために行う1年ごとの確認およびメーカー指定の推奨交換期間内での部品交換を行う保全管理手法です。
予防的な保全策を継続して講じている場合、通常1年に1回必要な「負荷運転または内部観察等」の実施周期を6年に1回に延長することができます。
① 1年ごとに確認すべき項目(装置が設けられている場合)
設備に以下の装置が備えられている場合、毎年1回動作や状態の確認を行います(設置されていない場合は対象外)。
対象項目 | 確認・点検内容 |
|---|---|
予熱栓(グロープラグ) | 発熱部に断線、変形、絶縁不良等がないことを確認。 |
点火栓(スパークプラグ) | 電極の異常な消耗がないこと、プラグギャップ値が製造者の指定値範囲内であること、異常な燃焼残さ物の付着がないことを確認。 |
冷却水ヒーター | ケース外周や近傍配管の温度を確認(他部位より温かいか)し、テスタ等で断線の有無を確認。 |
潤滑油プライミングポンプ | プライミングポンプが正常に作動していることを確認。 |
② 製造者が設定する推奨交換期間内に交換すべき部品・油脂類
消耗品や経年劣化しやすいパーツについて、メーカーが推奨する交換年数(使用期間)に基づき適切に交換を実施します。
- 潤滑油(エンジンオイル)
- 冷却水
- 燃料フィルター
- 潤滑油フィルター
- ファン駆動用Vベルト
- 冷却水用等のゴムホース
- パーツごとのシール材(燃料、冷却水、潤滑油、給気、排気系統や外箱等に用いられるパッキン・Oリング等)
- 始動用の蓄電池(バッテリー)
これらを計画的かつ適切に交換・維持管理しておくことで、無負荷運転時における未燃燃料の過剰な蓄積を防ぎ、6年に1回の負荷運転・内部観察等でも良好な性能を維持することが可能となります。
4. 法的に義務とされる点検(消防法・電気事業法)と費用感
自家発電設備(非常用発電機)は、主に消防法に基づく「消防用設備等点検」と、電気事業法に基づく「自家用電気工作物点検」の2つの法律によって定期点検が義務付けられています。
法的点検の種類と概要
消防法に基づく点検(消防用設備等点検)
- 機器点検(半年に1回): 外観や配置状況、接続部、始動装置、油量、バッテリー等の状態を確認します。
- 総合点検(1年に1回): 実際の作動確認、運転性能、保護装置の確認、および「負荷運転」または「内部観察等」を行います(予防保全策適用時は6年に1回)。
電気事業法に基づく点検(自家用電気工作物保安規定)
- 月次点検(1ヶ月〜3ヶ月に1回): 電気主任技術者等による外観点検や異音・異臭・漏油の有無、制御盤等の確認。
- 年次点検(1年に1回): 停電点検(または精密点検)による絶縁抵抗測定、保護継電器試験、シーケンス試験等の実施。
点検・維持管理の一般的な費用相場(目安)
自家発電設備の出力(kW)、設置環境(屋上・地下・屋外等)、台数によって費用は異なりますが、一般的な市場価格の目安は以下の通りです。
- 月次点検費用(年間契約按分): 約10,000円 ~ 30,000円 / 回
- 年次点検・機器点検費用: 約50,000円 ~ 15,000円 / 回
- 負荷運転点検費用(疑似負荷装置使用): 約150,000円 ~ 400,000円 / 回
- 内部観察等点検費用: 約200,000円 ~ 500,000円 / 回(エンジンサイズや分解範囲による)
- 予防保全(消耗品・バッテリー交換等): 約100,000円 ~ 600,000円 / 回(交換部品数による)
※設備の規模やメーカー、点検事業者の見積条件により大きく変動します。
5. 法的点検・主任技術者の資格・点検内容(比較表)
自家発電設備の点検にかかわる資格制度や、法律ごとの点検内容を以下の表にまとめました。
点検区分と技術資格・内容一覧表
項目 | 消防法に基づく点検(機器点検・総合点検) | 電気事業法に基づく点検(月次・年次点検) |
|---|---|---|
主な根拠法令 | 昭和50年10月16日消防庁告示第14号 等 | 電気事業法 第42条・第43条(保安規定) |
点検周期 | 機器点検:半年に1回 | 月次点検:1~3ヶ月に1回 |
|
必要な主な技術資格 | ・消防設備士(第4類・甲種等) | ・電気主任技術者(第一種・第二種・第三種) |
主な点検内容 | 【機器点検】 | 【月次点検】 |
報告先 | 所轄の消防署長へ報告(特定防火対象物は1年に1回、その他は3年に1回) | 産業保安監督部(保安規定に基づき社内保管、定期監査等で確認) |
6. よくある質問(Q&A)
自家発電設備の改正点検基準に関する代表的なQ&Aを3点紹介します。
Q1. 2018年以前に製造・設置された既存の古い非常用発電機でも、「6年に1回」の延長特例を適用できますか?
A1. 原則として可能です。2017年6月以前に製造・負荷運転が実施された旧型の発電設備であっても、過去に定期的な予防的保全策が適切に講じられていたことが点検記録等で確認できる場合に限り、同様に「6年に1回」の延長サイクルを適用することができます。
Q2. 「無負荷運転(試運転)」だけを毎年行っていれば、負荷運転や内部観察は全くやらなくて良いのですか?
A2. いいえ、省略できるわけではありません。無負荷運転(無負荷での試運転)は毎年の点検等で実施しますが、無負荷運転のみではエンジン内部にカーボン(未燃燃料等)が溜まりやすい性質があります。そのため、「予防的な保全策」を講じている場合であっても、最長6年に1回は「負荷運転」または「内部観察等」のいずれかを実施する義務があります。
Q3. 「負荷運転」と「内部観察等」のどちらを選べば費用や運用面で有利ですか?
A3. 建物の環境や設置場所により異なります。
- 負荷運転が適している場合: 屋外設置や1階設置などで疑似負荷試験車・装置を容易に横付けできる環境であれば、短時間で点検作業を完了できるケースが多いです。
- 内部観察等が適している場合: 地下深くやビル屋上に設置されていて疑似負荷装置の搬入・配線敷設が極めて困難な場合や、稼働音・排煙に対する近隣配慮が必要な場合に適しています。
ただし、内部観察等はエンジンの分解・復元や成分分析作業を伴うため専門の技術者と作業時間が必要となります。設置環境や予算に応じて点検事業者と相談して選択することが推奨されます。
7. まとめ
2018(平成30)年6月1日の自家発電設備点検基準の改正は、従来の「実負荷点検の難しさ」や「搬入困難」といった現場の課題を合理的に解決するために実施されました。
- 負荷運転の代替としての「内部観察等」の追加
- 予防的な保全策の実施による実施周期の「6年に1回」への延長
- ガスタービン式自家発電設備における負荷運転の不要化
- 換気性能点検の「無負荷運転時」への見直し
これら4つの大きなポイントを押さえ、定期的な部品交換(予防保全策)を組み込んだ計画的なメンテナンス体制を整えることが重要です。万が一の災害や停電時に非常用発電機が確実に作動するよう、消防法および電気事業法に基づいた適切な点検・管理を継続しましょう。
この記事の監修者
前田 恭宏
小川電機株式会社 経営企画室
電材業界で40年以上にわたり営業として従事。 空調や照明からキュービクル、非常用発電機、トランス、制御盤、電線まで、電気設備全般に幅広く携わってきました。 キュービクルや非常用発電機の導入・更新に関する不安や疑問にも、現場経験をもとにわかりやすくご説明いたします。
