災害時に生命の維持に欠かせない電気は、医療施設において患者様の命を直接つなぐ生命線そのものです。病院の営繕担当者様や防災責任者様からは「どの法律の基準を満たせば良いのかわからない」「点検コストやBCP対策のバランスに悩んでいる」といったご相談を数多くいただいてまいりました。
本記事では、非常用発電機について疑問や不安を持つ企業の設備担当者やオーナー様向けに、長年非常用発電機を扱ってきた実績を持つ当社の前田(一級電気管理技士)が、「非常用発電機の導入検討する事業者が知っておくべきこと」をテーマとして病院の非常用発電機をご紹介します。
この記事の監修者
前田 恭宏
小川電機株式会社 経営企画室
電材業界で40年以上にわたり営業として従事。 空調や照明からキュービクル、非常用発電機、トランス、制御盤、電線まで、電気設備全般に幅広く携わってきました。 キュービクルや非常用発電機の導入・更新に関する不安や疑問にも、現場経験をもとにわかりやすくご説明いたします。
▼この記事のポイント
- 消防法・建築基準法・医療法:各法律が求める設置基準と運転時間の違い
- 発電機の駆動方式と選定:ディーゼルとガスタービンの性能・コスト比較
- 病院での使用用途と給電区分:生命維持装置から防災設備までの役割分類
- 瞬時停電への対策:医療機器を守るUPS(無停電電源装置)の併用手順
- 点検義務と実務:点検周期の見直しと負荷試験・予防保全の対応方法
1.病院の非常用発電機に関する法令基準
医療施設に設置する非常用発電機は、主に3つの法律(消防法・建築基準法・医療法)による要件を満たす必要があります。それぞれの法令が設けている目的や規定の範囲を正しく理解して運用計画を立てましょう。
消防法による基準
消防法は、火災発生時に消火活動や避難を円滑に行うための設備(スプリンクラー、屋内消火栓、排煙設備など)へ給電することを義務付けています。停電発生から自動で電源が切り替わるまでの時間は40秒以内と定められており、60分以上の連続運転が可能な燃料確保が求められます。
建築基準法による基準
建築基準法は、地震や大雨などの災害発生時に建物内の人間が安全に避難するための給電を目的としています。非常用照明や非常用エレベーターなどが対象であり、停電発生から30秒以内に電力を供給開始し、30分以上作動し続ける仕様で設計しなければなりません。
医療法・厚生労働省通知による基準(BCP対策)
医療法人や厚生労働省のガイドラインでは、患者の命を守る医療機器(人工呼吸器、透析装置、手術室設備等)への供給体制を定めています。災害拠点病院などの主要な医療機関では、外部からのインフラ供給が完全に途絶えた場合でも最低72時間(3日間)機能を維持できる燃料確保および設備構築が指定要件となっています。
2.非常用発電機の種類と特徴
非常用発電機には複数の駆動方式や燃料が存在し、施設の規模や設置条件によって最適な仕様が変化します。性能とコストのバランスを考慮した機器選定手順を確認しましょう。
ディーゼルエンジン発電機
軽油やA重油を燃料とする方式であり、起動時間の短縮と熱効率の高さから広く普及しています。設置初期費用を低く抑えやすい半面、エンジン部品の数が多く定期的なオイル交換や部品メンテナンスの頻度が高くなる傾向があります。
ガスタービン発電機
都市ガスやLPガス、灯油など多様な燃料を利用でき、確保しやすい特性を持ちます。構造がシンプルで振動や騒音が小さいため、都市部の高層病院や大規模医療センターなどの限られた空間への設置に適しています。
3.病院における非常用発電機の主な使用用途と給電区分
病院内の電気設備は、停電時に患者の命や医療機能を維持するため、重要度に応じて非常電源からの給電ラインが区分されています。災害時に生命の維持に欠かせない設備と保安レベルの分類を把握しておきましょう。
給電区分(保安レベル) | 主な使用用途・対象設備 | 停電時の許容猶予時間 | 発電設備・システム構成 |
|---|---|---|---|
一般非常電源(防災用) | ・スプリンクラー | 40秒以内(建築基準法・消防法基準) | 非常用発電機(単体) |
一般保安電源(業務維持用) | ・電子カルテ・院内ネットワークサーバー・調剤用保冷庫・血液保冷庫・一般病棟の照明・コンセント・空調・給排水設備(一部) | 40秒以内 | 非常用発電機(単体) |
特別保安電源(一般医療機器) | ・人工透析装置・生体情報モニター・吸引器・電動ベッド・検査機器(CT・MRI等の一部制御) | 10秒以内 | 非常用発電機(高速始動型) |
瞬時特別保安電源(生命維持装置) | ・人工呼吸器・人工心肺装置・手術室の照明・医療機器・ICU / CCUの生命維持管理装置 | 0.5秒以内(無瞬断) | 無停電電源装置(UPS)+ 非常用発電機 |
4.病院で非常用発電機を運用する際の重要ポイント
非常用発電機は起動までに数十秒のタイムラグが生じるため、単体のみではすべての医療機器を守り切れません。医療現場特有のリスクに対応できる給電システムの構築手順を解説します。
瞬時停電を防ぐ無停電電源装置(UPS)の連携
発電機が起動して電圧が安定するまでの10秒〜40秒間、無瞬断で電力を供給するUPSの設置が欠かせません。電子カルテのデータ破損や生命維持装置の誤作動を防ぐため、受変電設備と発電機、UPSを連結させた配線設計を実施します。
水害・浸水被害に備えた設置位置の選定
豪雨や洪水による地下室の浸水で受変電設備や発電機が水没し、全電源喪失に陥る事故が報告されています。発電機本体や制御盤、燃料タンクを地上階や屋上に配置するか、浸水防止策を施した区画内へ設置する設計変更が強く推奨されます。
5.当社の対応事例
弊社がこれまでに手がけた医療施設における非常用発電機の導入および改善事例を5つご紹介します。病院ごとの診療体制や設置条件に合わせた最適な解決策をご提案しています。
事例①:災害拠点病院での72時間連続運転に向けた大容量燃料タンク増設
災害拠点病院の指定要件を満たすため、従来の24時間対応から72時間連続稼働への改修をご依頼いただいた事例です。敷地内の限られたスペースを活用し、耐震性能を備えた地下埋設型燃料タンクを追加施工することで、病床運用を止めることなく工事を完了させました。
事例②:浸水リスク回避を図る地下から屋上への発電機の更新時に移設工事
ハザードマップの見直しに伴い、地下1階に設置されていた既設発電機の水没リスクが懸念された事例です。建築構造の強度計算を行い、屋上スペースへの移設と防音・防振対策を実施することで、豪雨災害時でも電源確保が可能な環境を構築しました。
事例③:人工透析専門クリニックでの無停電化(UPS+発電機)システム導入
透析治療中の突然の停電によるトラブルを防ぐため、受変電設備の見直しを行った事例です。停電時に自動で切り替わる高精度なUPSと、長時間稼働に対応するディーゼル発電機をパッケージ導入し、透析機器への供給電力を完全に保護しました。
事例④:入院棟の増築に伴う発電容量増強と低騒音型機器への更新
病床数の増加に伴い既存の発電容量では全負荷を賄いきれなくなったため、増出力への更新を行った事例です。閑静な住宅街に隣接する病院であるため、特殊防音パッケージを採用した超低騒音型ディーゼル発電機を選定し、夜間の試運転音や騒音対策にも配慮しました。
事例⑤:老朽化発電機の無停電切替工事(移動電源車バックアップ)
設置から30年以上が経過し部品調達が困難となった非常用発電機の全面刷新を行った事例です。病院機能を24時間停止させないため、事前計画に基づき移動電源車を配置して仮設給電ラインを敷設し、患者様への影響を最小限に抑えて施工を完了しました。
6.よくある質問
病院の非常用発電機に関して、施設管理者様や医療スタッフの方々から寄せられる代表的なご質問5つにお答えします。
Q1. 手術室やICUの医療機器は非常用発電機だけで保護できますか?
A.非常用発電機のみでは保護しきれません。発電機が起動して電圧が安定するまでに10秒〜40秒程度のタイムラグが発生するため、医療機器への給電が一瞬途切れてしまいます。瞬時停電も許されない機器には無停電電源装置(UPS)を挟み、発電機起動までの数分間をバッテリーでバックアップする二重構造が必要です。
Q2. 病院の法定点検(負荷試験)で全館停電を伴う作業は回避できますか?
A.疑似負荷試験装置(ロードバンク)を使用した点検方法を採用することで、全館停電を回避して実施可能です。実際の建物の負荷を使わずに試験装置へ通電させるため、ナースコールや電子カルテ、医療機器を稼働させたまま消防法に基づく30%以上の負荷運転試験を行えます。
Q3. 72時間稼働に必要な軽油は長期保管しても品質に問題ありませんか?
A.軽油は長期間保管すると水分混入や酸化劣化、スラッジ(不純物)が発生し、フィルタ詰まりやエンジン始動不良の原因となります。定期的な燃料清浄作業(フィルタリング)を行うか、定期点検時の試運転で燃料を少しずつ消費し、計画的に新しい燃料へ入れ替える運用管理が必要です。
Q4. 診療中の試運転による騒音や振動、排気ガスを抑える方法はありますか?
A.高性能サイレンサー(消音器)の取り付けや防音パッケージの導入、排気管を屋上高所まで立ち上げる施工で大幅に軽減できます。試運転の実施時間帯を診療時間外や患者様の負担が少ない時間帯に設定する調整も行います。
Q5. 災害時に優先的に燃料の配送を受けるための準備は何かありますか?
A.地域の石油販売業者や燃料供給事業者と「災害時における優先燃料供給協定」を締結しておくことが大切です。自治体の防災計画と連携した優先給電ルートの確保や、自社タンクの残量監視センサーの導入により、緊急時の手配漏れを防ぐ体制を整備できます。
7.まとめ
病院における非常用発電設備は、火災・自然災害などの緊急時において患者様の命と医療活動を支える基盤となります。消防法・建築基準法・医療法それぞれの設置基準を正しく満たした上で、UPSとの連携や水害対策を含めた総合的な給電システムを設計することが求められます。
定期的な点検作業や予防保全を怠らず実施し、いつ発生するかわからない災害に対して確実に作動する体制を整えておきましょう。
8.小川電機株式会社について
小川電機株式会社は、電設資材・住設機器の総合商社として長年にわたり地域のインフラ構築に携わってまいりました。病院・医療施設における非常用発電機の新規導入や老朽化に伴う更新など現場の課題に合わせた最適なソリューションをご提案いたします。設備の導入など非常用発電機に関するお悩みがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
項目 | 内容 |
|---|---|
|
商号 |
小川電機株式会社 |
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設立 |
1963年3月(創業1947年) |
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本社所在地 |
〒545-0021 大阪府大阪市阿倍野区阪南町2丁目2番4号 |
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事業内容 |
電設資材・家電製品・住設機器の総合卸商社 |
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拠点数 |
関西・首都圏を中心に40拠点以上 |
この記事の監修者
前田 恭宏
小川電機株式会社 経営企画室
電材業界で40年以上にわたり営業として従事。 空調や照明からキュービクル、非常用発電機、トランス、制御盤、電線まで、電気設備全般に幅広く携わってきました。 キュービクルや非常用発電機の導入・更新に関する不安や疑問にも、現場経験をもとにわかりやすくご説明いたします。
