高圧受電設備は、契約電力が50kWを超える施設に必ず導入が求められる重要な装置です。工場や商業施設など、大量の電力を安定的に利用するためには欠かせません。
今回は、高圧受電設備の基本的な仕組みから導入手続き、さらに法令で義務付けられている点検方法までわかりやすく解説します。導入を検討している方はもちろん、既に利用している方にとっても、正しい知識を得ることで安全で効率的な運用につなげることができます。
受電の仕組み
電力を安全かつ効率的に使用するには、その供給方法や仕組みを理解することが重要です。電力会社から送られてくる電気は施設の規模や用途によって電圧の種類が異なり、契約条件にも直結します。
ここでは、供給される電圧の区分と、実際に施設へ電気を届けるまでの受電の仕組みについて詳しく解説します。正しく理解することで、導入や運用時の判断材料として役立てることができます。
供給電圧の種類
電力会社から供給される電圧は次の3種類に分けられます。
- 特別高圧
- 高圧
- 低圧
特別高圧
特別高圧は標準電圧20,000V以上の電力で、大規模な工場やデパート、遊園地などの大型施設で使用されます。
高圧
高圧は標準電圧6,000V以上で、契約電力が50kW以上の場合に適用されます。中規模の工場や官庁舎、ファミリーレストラン、コンビニなどの施設で導入されています。
低圧
低圧は標準電圧100Vまたは200Vで、契約電力が50kW未満の家庭や集合住宅に使用されます。
受電の仕組み
100Vまたは200Vの低圧契約でも、発電所から施設までは6,600Vの高電圧で送電されます。この電気を100Vや200Vに変圧する際には、電柱上の「柱上変圧器」を介して受電します。
一方、高圧受電は施設内に設置されたキュービクルなどの高圧受電設備を経由します。この設備を通すことで6,600Vの高圧電力を100Vまたは200Vに変圧し、施設内で安全に利用できる状態にします。
高圧受電設備の概要
高圧受電設備は、施設が安全かつ効率的に電力を利用するために欠かせない装置です。発電所から送られる高電圧の電力を受け取り、実際に使用できるレベルにまで変換する役割を担っています。ここでは、高圧受電設備の基本的な仕組みや導入の背景を整理し、さらに種類ごとの特徴や費用の目安について解説します。
高圧受電設備とは
高圧受電設備とは、発電所から送られてきた高圧の電力を受電し、施設で使用できるレベルまで変圧する装置のことです。主に工場や商業施設など大規模な施設で導入され、6,600Vの電圧を持つ電力を100Vや200Vに降圧して利用可能にします。
高圧受電設備の種類
高圧受電設備は、次の2種類に分類されます。
- キュービクル式高圧受電設備(閉鎖型)
- 受電室式高圧受電設備(開放型)
「キュービクル式」は装置が箱に収められており、外部からの影響を受けにくいというメリットがあります。一方、「開放型」は点検や増設がしやすい反面、装置が外部に露出するため、日射や気象条件の影響を受けやすいことがデメリットです。昨今では、新規導入の場合はキュービクル式が主流となっています。
さらに、キュービクルは規模に応じて次の3種類に分けられます。
- 大型キュービクル:個別生産が中心
- 標準キュービクル:小型2台分以上の大きさ
- 小型キュービクル:小規模施設で利用
それぞれの施設例や費用、サイズは次のとおりです。
規模 |
施設例 |
本体費用(目安) |
サイズ |
大型キュービクル |
製造工場や病院など |
1,500万円以上 |
それぞれの施設による |
標準キュービクル |
中小規模の工場、オフィスビル、スーパーなど |
600万円~1,500万円 |
高さ2,400mm 幅1,600~3,200mm 奥行1,000~1,900mm程度 |
小型キュービクル |
小規模施設やコンビニなど |
400万円ほど |
高さ1,700mm~2,400mm 幅900~1,900mm 奥行800~1,100mm程度 |
このように、キュービクルは規模によって導入される施設や費用が異なります。なお、表の金額はあくまで目安であり、詳細な費用は導入事業者に見積もりを依頼することが必要です。
高圧受電設備の内部構造
高圧受電設備は、電力を安全かつ安定的に利用するために複数の機器で構成されています。各機器はそれぞれ異なる役割を担い、相互に連携することで効率的かつ安定した電力供給を実現します。ここでは、主要な構成要素とその機能について整理し、設備全体の仕組みを理解できるように解説します。
- 高圧変圧器
- 高圧進相コンデンサ
- 直列リアクトル
- 計量器
- 遮断器
変圧器
高圧変圧器は、6,600Vの高電圧を100Vや200Vなど施設で利用可能な低圧に降圧する装置です。実際には、配線時の電力ロスを考慮して105Vや210Vといったやや高めの電圧で供給される場合もあります。
構造は、鉄心に巻数の異なる一次コイルと二次コイルを配置した仕組みです。電磁誘導の法則を利用し、巻数比に基づいて電圧を変換することで、安全かつ効率的に電力を供給します。
高圧進相コンデンサ
高圧進相コンデンサは、電力システムの力率を改善し、電気設備の効率を高める装置です。力率とは、供給された電力のうち有効に使われている割合を示す指標で、これが低いと電力損失が増え、余計な電力を消費する原因となります。
コンデンサを導入することで無駄な電力消費を抑制し、システム全体の効率を向上させることが可能です。
直列リアクトル
直列リアクトルは、高圧進相コンデンサと組み合わせて使用し、突入電流の抑制や高調波の低減を行う装置です。これにより、配電系統の安定化に寄与します。
その結果、他の電子機器への悪影響を防ぎ、配電品質を維持することができます。
計量器
計量器は、電圧・電流・電力量を測定する装置です。これにより、供給されている電力の状況を常時監視し、数値の異常や不具合を早期に把握できます。
遮断器
遮断器は、異常な電流が流れた際に自動で電流を遮断し、設備全体への被害拡大を防ぐ安全装置です。過電流や短絡などの異常時に機能することで、設備と利用者双方を保護します。
高圧受電設備の導入方法
高圧受電設備を導入する際には、法律や条例に基づいた手続きや、導入にかかる費用の把握が欠かせません。特に電気事業法では、設備の安全運用を確保するための規定が細かく定められており、遵守しなければなりません。
また、各自治体が定める火災予防条例も設置条件に大きく関わります。ここでは、導入時に必要となる届け出や規制、さらに費用の目安について解説します。
高圧受電設備の導入には届け出が必要
高圧受電設備は電気事業法における「電気工作物」に該当します。電気工作物とは「発電、蓄電、変電、送電、配電または電気使用のために設置する工作物」と定義されており、高圧受電設備もその対象に含まれます。そのため、導入時には法律に基づく措置が必要です。
具体的には、次の規定が設けられています。
- 保安規程作成・届出・遵守義務(第42条):小規模事業用電気工作物を除く事業用電気工作物の設置者は、保安規程を作成し、経済産業大臣へ届け出る義務があります。さらに、設置者や従業員はその規程を遵守しなければなりません。
- 主任技術者選任義務・職務誠実義務(第43条):事業用電気工作物を設置する場合、保安を監督する主任技術者を必ず選任しなければなりません。選任された主任技術者には誠実に職務を遂行する義務が課されます。
つまり、新たに高圧受電設備を設置する際には、保安規程の作成と提出、さらに主任技術者の選任が必須となります。
加えて、電気事業法以外にも、各自治体の火災予防条例を順守する必要があります。たとえば、東京都の火災予防条例第11条では、屋外に設置するキュービクルに対して、次の保有距離が定められています。
- キュービクル式受電設備は建築物から3m以上離して設置する。ただし、不燃材で開口部のない外壁に面する場合は例外。
- 金属箱の周囲には、1m以上かつ保安上有効な距離を確保する。
キュービクルの導入に必要な費用
キュービクルの導入費用は、規模や施設の用途により大きく変わります。おおよその相場は次のとおりです。
規模 |
施設例 |
本体価格 |
100KW |
小規模店舗、事務所等 |
約400万円 |
200KW |
中規模店舗、小規模工場等 |
約600〜1,000万円 |
300KW |
中規模工場、スーパー等 |
約1,200〜1,500万円 |
500KW |
大規模ビル、製造工場、病院等 |
約1,500〜2,500万円 |
ただし、これらの費用はあくまで目安であり、実際にはキュービクルの仕様や施設規模、使用電力量によって変動します。正確な費用を把握するためには、専門業者に見積もりを依頼する必要があります。
高圧受電設備の点検
高圧受電設備を安全に運用するには、定期的な点検が不可欠です。点検を怠ると、停電や火災、感電などの重大な事故につながる恐れがあります。
また、事故が発生すれば事業の継続が困難になり、第三者への被害が波及する可能性も否定できません。ここでは、点検の必要性とその内容を整理し、どのような観点で設備を維持していくべきかを解説します。
高圧受電設備の点検の必要性
高圧受電設備の点検を怠ると、停電事故や感電、火災などのリスクが高まります。
工場や商業施設で停電が発生すれば、事業の停止による大きな損失につながります。また、感電や火災は最悪の場合、人命を脅かす事態になりかねません。
さらに、波及事故として他施設に被害が及ぶと、多額の損害賠償を請求される恐れもあります。こうしたリスクを最小限に抑えるためには、定期的な点検の実施が必須です。
高圧受電設備の点検内容
電気事業法では電気工作物の定期点検が義務付けられており、高圧受電設備も例外ではありません。定められた点検を適切に行うことで、安全性を確保し、重大事故を未然に防ぐことが可能です。点検は、「月次点検」と「年次点検」に分けられます。
月次点検
月次点検は、目視や計器確認を中心に行う簡易的な点検です。設備が正常に稼働しているか、異常の兆候がないかを早期に発見することを目的としています。
確認項目の例は次のとおりです。
- 外観確認:配電盤、遮断器、変圧器、コンデンサなどに油漏れや変形、異常音、異臭がないか
- 計器類確認:電圧計・電流計・電力計の指示値が正常か
- 保護装置の状態:ヒューズや遮断器、継電器のランプ表示やリセット状態の確認
- 換気・絶縁状況:換気ファンや通風孔の詰まり、湿気やホコリの堆積確認
こうした項目を定期的に確認することで、異常を早期に発見し、事故や停電を未然に防ぐことができます。
年次点検
年次点検は、キュービクルを一時停止し、施設全体を停電状態にして実施します。通常運転では確認できない内部や隠れた箇所を詳細に調べることで、長期的な安全性を確保します。確認項目の例は次のとおりです。
- 遮断器・断路器:分解清掃、接点の摩耗や焼損の有無
- 変圧器:絶縁油の採取と絶縁耐力試験
- 接地抵抗測定:規定値を満たしているか
- 絶縁抵抗測定:母線・ケーブル・機器間の絶縁抵抗の確認
- コンデンサ・リアクトル:絶縁や膨張、油漏れの有無
- 機器内部清掃:ホコリや湿気、小動物侵入痕の除去
年次点検は設備を停止して行うため、直接的に安全性や耐久性の維持につながります。
なお、点検やメンテナンスにかかる費用は内容や業者によって異なりますが、保安管理業務費用の目安は月額10万〜20万円程度とされています。
まとめ
高圧受電設備は、発電所から送られる高電圧の電力を使用可能な低圧に変換し、工場や商業施設、テーマパークなど大規模な施設で安定した電力供給を実現するために欠かせない装置です。特に昨今の主流はキュービクル式で、外部環境の影響を受けにくく、安全性と信頼性の高さから多くの現場で採用されています。
導入にあたっては電気事業法に基づく届け出や主任技術者の選任が義務付けられており、さらに火災予防条例に従った設置条件を満たす必要があります。加えて、導入後も電気事業法に基づいた月次点検や年次点検を継続して行うことで、安全性を維持し、事故を未然に防ぐことが求められます。
小川電機株式会社は、60年以上の実績をもとに、キュービクルの新規設置からメンテナンス、トラブル対応まで幅広くサポートしています。安心・安全な電力インフラを構築するためのパートナーとして、ぜひご相談ください。