街中の電柱を見ていくと、時々バケツのような物が付いているのを見たことがあるかもしれません。しかし見たことはあってもそれが何のためにあるのか説明できる人は少ないと思います。
また、ビルや学校、工場や大型の商業施設でネズミ色の四角い箱のような設備も見たことはあるでしょうか?
それはキュービクルと呼ばれる電気設備で、中には電柱に付いているバケツと同じような物が入っています。
実は、いずれもトランスと呼ばれるもので、私たちの生活の中で電気を安全に使うためになくてはならない設備なのです。
しかし、それが具体的に何の働きをして、どのような仕組みなのかは専門の知識がないとわからないはずです。
そこで今回は、トランスとはどのような物なのかや、その仕組みや働き、使用する際の注意点など詳しく紹介していきます。
目次
トランスとは何か?
まずは、トランスの基礎的な情報を確認していきましょう。トランスは、先ほども紹介したように電柱や施設に設置されているキュービクルの中の部品のひとつとして使われています。
大きさは様々で、手ごろなバケツサイズから大きなものまであります。それに伴い、重さも100キロ程度のトランスから最大では数トンにもなるトランスもあります。
大きさは変わってくるものの、基本的な性能は同じで簡単に言えば発電所・変電所から送られてくる高電圧の電気を、それぞれの用途に合わせて電圧を調整する働きがありますが、もう少し詳しく見ていきます。
トランスの役割
トランスの役割は非常に大きく、電気を安全に利用するためには必要不可欠な存在です。電気は電力会社の発電所で作られ、電線を使って送電しています。しかし、そのまま送電すると電圧が高すぎるため使用できません。
そこで、送電する途中で変電所にて50万ボルトの高電圧の電気を数千ボルトから数万ボルトへ下げていきます。
何段階かの減圧を経て、6,600ボルトになった電気は電柱のトランスやキュービクル内のトランスによって100ボルトから200ボルトに変換されると機械で使用できるようになります。
トランスとキュービクル
しかし、電柱にあるトランスとキュービクルのトランスは何が違うのかという疑問が生まれます。どちらも役割は同じなのに、なぜ2種類存在するのでしょうか。
その理由は、それぞれのトランスを管理する責任者が違うからです。電柱のトランスは電力会社が設置やメンテナンスを行っています。一般家庭の基本料金の中に、メンテナンス料などが含まれているため全て電力会社が行っています。
それに対して、キュービクルは設置している施設の管理会社が管理責任を持っています。そのため、設置やメンテナンスなどの作業は全て管理会社が自分たちの責任で行わなければなりません。
しかし、メンテナンスを実施することで電気料金は一般家庭よりも安くなるため、その分より多くの電力を使用できるほどの費用対効果があります。
仕組みと働き
トランス内の仕組みとしては、鉄心にコイルを巻きつけて電気を発生させるような構造になっています。
ここでピンと来た人がいるかもしれませんが、中学校などの理科でコイルを巻きつけて磁石を使うと電気が発生する実験と同じ仕組みと言えます。
それが、大きくなっただけの簡単な構造なので一般の人にも理解しやすいかと思います。しかし、電圧は非常に高いので専門家以外が取り扱うのは危険です。
トランスは容量に応じて交換が可能!
電柱のトランスは電力会社がメンテナンスなどを行います。今回は施設の用途によってトランスの容量やキュービクルの種類を変えなければならないキュービクルの取り扱いについてもう少し詳しく見ていきましょう。
キュービクル内のトランスには容量が決められており、施設内で使用する電力の量によってキュービクルの種類を決める必要があります。
基本的には専門業者が必要な容量を計算して、それに応じて決めることになりますが、場合によってはキュービクル、またはトランスの増設や減設も必要な場合もあります。
増設や減設も出来る
キュービクルは安くても1機で数百万円もかかる高額な設備です。1度設置したら、なるべく長く使用して初期投資を早期回収できるように適切なメンテナンスを行います。
しかし、設置当初とはビルや施設内の使用用途が変わってしまうなど、現状のキュービクルの容量では対応できなくなった場合には、トランスやキュービクル本体の交換をしていく必要があります。
専門業者と相談して、キュービクル本体の交換ではなく、トランスのみの交換で済む場合には、費用も比較的安く抑えられます。
トランス交換のメリット
トランスのみの交換で済む場合には、いくつかのメリットがあります。まずは、費用が安く抑えられることです。業者によっては、中古のトランスを販売しているところもあり、費用負担を抑えたい会社にとっても中古のトランスは利用しやすいものとなります。
安いトランスなら50万円からあるので、数百万円するキュービクル本体の交換よりもはるかに安く抑えられます。
次に、工事が簡単な作業で済む場合もあることです。キュービクル本体の交換では、場所によっては大きな工事となってしまい、費用もかかってしまいます。
しかし、トランスのみの交換であれば数人程度の作業員によって短時間で作業を終わらせることも可能です。ただし、大規模な施設のキュービクルなどは特注品の場合もあるので、業者との相談が必要です。
メンテナンスもしっかりと
また、増設や減設をする以外でも、メンテナンスは大切な作業になります。トランスは非常に丈夫なので長年使えますが、メンテナンス次第で、寿命は大きく変わってきます。
寿命
トランスの寿命は、約30年と言われています。しかし、こまめな点検やキュービクル内のトランス以外の部品交換、また、設置環境によってもトランスの寿命を伸ばすことが出来ます。
しかし、高電圧の電気が常に流れている部分でもあるため、必要以上に使用して事故にならないように気を付けなければなりません。
使用状況が悪いと、漏電や爆発事故などが実際に起こったこともあります。しっかりと電気主任技術者や電気工事士など有資格者に指示を仰ぐようにします。
昔に製造されたトランスは使用禁止に?
トランスを扱う際に注意しなければならない点が1つあります。それはトランスにPCBが使用されているかどうかです。PCBとは、ポリ塩化ビフェニル化合物と呼ばれる人工的に作られた油状の化学物質になります。
PCBの特徴
PCBの特徴としては以下の点が挙げられます。
・水に溶けにい
・沸点が高い
・熱で分解しにくい
・不燃性
・電気絶縁性が高い
このような性質から、以前から電気機器に利用されていました。具体的にPCBが使われていた主な製品としては、以下の物があります。
・ビル、病院、鉄道車両、船舶等の変圧器
・蛍光灯
・電子レンジ
・集中暖房、パネルヒーター
・塗料、印刷インキ
これらを見ると、日本中のあらゆる場所でPCBが使われていることが分かると思います。
PCBの毒性
万能な化学物質として様々な用途に利用されていたPCBですが、1970年頃に有毒性があると分かったため製造や輸出入が日本で禁止になりました。
1968年に食用油の製造過程で、熱媒体として使用されたPCBが混入したカネミ油症事件がきっかけでPCBの有毒性があきらかになりました。
西日本のエリアを中心に、吹出物、色素沈着、目やになどの皮膚症状のほか、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振などの症状を訴える人が続出しました。
PCB汚染の有無の判別
トランスにも使用されていたPCBですが、1973年以降に製造されたキュービクルであれば使用されている可能性は低いと考えられています。
しかし、低濃度のPCBが部品によっては含まれている可能性もあるため、製造メーカーや専門の業者に検査をしてもらうのが最も安全な対応と言えます。
PCBが含まれていた場合には、必要な手続きを行って廃棄に向けて進めていかなければなりません。また、低濃度の場合であれば、無害化して使用を継続できる場合もあるので、まずはしっかりと確認を行いましょう。
生活を陰で支える大切な機械
トランスは、普通の生活では気づかれにくいような場所にあり、その存在を意識して見られることもほとんどありません。
しかし、実は一般家庭や職場、その他の商業施設など、私たちの生活にはどれも必要不可欠な物であり、大きな仕事をしているのです。
キュービクルやトランスの寿命を考えると、PCBを含むキュービクルを現在も使用している施設はまだある可能性が考えられます。
その場合は、早急に対応する必要がありますが、まずは情報収集をしていくことが大切です。キュービクルを設置して管理する責任者や、電気関係の資格を得る場合には、当然トランスやPCBの知識は必要になると思いますが、それ以外の人もぜひ、最低限の知識を身につけておくと良いでしょう。